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東京高等裁判所 昭和31年(ラ)751号 決定 1957年2月20日

抗告人 深沢四郎

主文

原競落許可決定を取消す。

本件競落はこれを許さない。

理由

第一、本件抗告の趣旨並びに抗告理由は別紙記載のとおりである。

第二、決定理由

記録を調査するに、本件競落許可決定の前提となつた昭和三十一年八月二十日午前九時の競売期日の公告には、競売に付すべき不動産の表示として(1) 甲府市東三条通第一一番宅地二七七坪、(2) 同町第十四番の一宅地五四坪五合、(3) 同所第十三番家屋番号同町二番の二、木造板葺平家建工場一棟建坪十五坪、木造瓦葺平家建居宅一棟建坪一二坪及び右工場に備附けた機械器具一式(工場抵当法第三条による目録の提出あつたもの、個々の表示はここでは略する)と記載されていることは、明らかである。

右の表示と、本件競売申立書に添附された競売に付すべき不動産に関する登記簿謄本、及び本件競売開始決定に表示された目的不動産の表示とを対照するときは、(1) の宅地二百七十七坪の所在番地を除いては一致しているが、本件競売の目的たる右(1) の宅地二百七十七坪の所在地番に関しては、後者によれば甲府市東三条通り第十三番であるのに、前者即ち本件競売期日の公告によれば同所第一一番となつていて、右公告の記載は明らかに間違つている。尤も右地番の記載は明白な誤記で目的不動産の同一性を欠く程の瑕疵とならないとしても、問題となるのは、抗告理由に指摘する如く、(3) の建物に関する前記公告の記載が、競売期日の公告に具備すべき不動産の表示として欠けるところなきやである。

本件競売に際し評価を命ぜられた鑑定人植松光忠の昭和三十年八月三日附不動産評価報告書(記録第四〇丁以下)によれば、(イ)前記工場は東西卸共十四間半南北三間のもので、建坪四十三坪五合、昭和二十六年中増築したものとの申出あり、(ロ)居宅は東西六間南北三間、北側に九尺通の卸、南側四間通は四尺の卸、西北隅に一間に三尺の出、北側東端に九尺に九尺のもの附属し、又北側に一尺五寸に六尺の出あるもので、総建坪三十二坪六合六勺あり、右建物は六畳二室、四畳半、三畳、事務室六坪、物置二、二五坪、中廊下二、六六坪、勝手等に区劃してあり、昭和二十三年中増築したものと申出があつた旨記載されて居り、なお本件土地家屋の隣りに債務者深沢四郎以外の第三者所有の事務室や物置が建設されていることなどが、附記されている。そして原裁判所が本件抗告につき再度の考案のため審尋した前記植松光忠及び深沢四郎の供述と、前記鑑定報告書を総合すれば、本件競売の目的たる前示(3) の工場及び居宅については、前記鑑定報告書の記載にもあるとおり、所有者深沢四郎において逐次増築変更したが、登記簿面はそのままとなつているに止まり、その増築変更を通じその同一性において変るところなく、前記鑑定人も右現状の下における工場居宅を評価したものであることが窺われるが、右登記簿面の表示即ち本件抗告における右(3) の工場居宅の表示と現状のそれとは、その坪数構造において著しく相違しているのである。

元来競売法第二十九条第一項、民事訴訟法第六百五十八条第一号により競売期日の公告に不動産の表示を要することとしたのは、これによつて競売の目的である不動産を特定しその同一性を知らしめると同時に、他の公告記載要件と相俟ち、でき得る限り当該不動産の実質的価値を了知させ、以て多数の人々に競売手続に参加せしめる機会を与えて、その競買申出にそごなきを期せんとするにあることは明白であるから、前示の如く客観的にみてその同一性において変るところはないにしても、右公告の趣旨に鑑みれば、当該不動産の公告の記載と現状とがその態様坪数において多少の相違あるに過ぎない場合は格別、本件の如く両者著しく異なる場合にあつては、一般競買申出人に対しその同一性を認識させるためにも、また現在の建物の実状を知らせるためにも、単に旧態たる登記簿上の構造坪数のみを公告に記載するだけでは足らず、これに併せて実測として現在の構造坪数を表示し、以て前示公告の目的に副う不動産の表示を必要とすると解さなければならない。

これを要するに前示競売期日の公告には、競売法第二十九条により準用せられる民事訴訟法第六百五十八条第一号の表示を欠くものというべく、同法第六百七十二条第四号、第六百八十一条により競落許可決定に対する抗告適法の理由となるものである。

そして本件にあつては、前示(1) ないし(3) の物件につき一括した総価額を以て競落を許可したのであるから、既に右(3) の不動産につき競売期日の公告に前示の違法ある以上、右競落許可決定は全体として取消しを免れない。

よつて爾余の抗告理由に対する判断を省略し、原競落許可決定はこれを取消し、本件競落を許さざるものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 斎藤直一 坂本謁夫 小沢文雄)

抗告の趣旨

甲府地方裁判所が昭和三十年(ケ)第五六号不動産競売事件につき昭和三十一年八月二十四日後記不動産につき言渡した競落許可決定は之を取消す右競落は許可しない。との御決定を求める

抗告の理由

一、甲府地方裁判所が昭和三十一年七月十八日附を以つて為した本件競売期日の公告には左の通り不動産の表示が為されました

甲府市東三条通第拾参番

一、宅地弐百七拾七坪 此最低競売価格金七拾四万七千九百円

同所第拾四番の壱

一、宅地五拾四坪五合 同金拾四万七千百五拾円

同所第拾参番

家屋番号同町第弐番一一番の二

一、木造板葺平家建工場壱棟建坪拾五坪

一、木造瓦葺平家建居宅壱棟建坪拾弐坪

工場抵当法第三条による機械器具目録

モーター20P 明電舎 壱台

帯鋸42吋 秋本製 壱台

帯鋸目立組機 秋本製 四組

中型帯鋸自動目立機 〃 壱台

右機械器具は家屋番号一一番の二収容

最低競売価額金三十七万五千二百円

右不動産に賃貸借関係なし

二、然し乍ら前記不動産は昭和二十五年以前の建物の表示であり右建物は昭和二十五年七月十日他より抗告人が買受け所有するに至つてから即ち同年八月三十日増築し現在は左記の通りの坪数を有するに至りました

現在の建物の表示

甲府市東三条通拾参番地

一、木造板葺平家建工場  壱棟 建坪四拾坪五合

一、木造瓦葺平家建居宅  壱棟 建坪拾四坪八合

一、木造鉄板葺平家建工場 壱棟 建坪六坪

一、木造鉄板葺平家建倉庫 壱棟 建坪弐坪壹勺

一、木造鉄板葺平家建居宅 壱棟 建坪拾坪弐合七勺

三、競売法第二十九条第一項により準用せらるる民事訴訟法第六五八条第一号により競売期日の公告には不動産の表示を為すことを必要とする強行規定があるのに拘らず甲府地方裁判所は前記の如く建物の表示を為すのに現実に存在する建物の表示を為さず数年前に於ける増築前の表示を為したが只単に登記簿上の表示を為したるに止り全然同一性を有しない建物を表示しその坪数に於ても公告した建物は弐棟合坪数弐拾七坪であるのに実存建物は五棟七拾参坪五合八勺で殆ど二、七倍に当る坪数で著しく事実に相違して居るのは競売期日の公告に不動産の表示を為さないのに等しいものである

四、競売期日の公告には前記法律の条項により不動産の表示を為すことを必要とする場合に実存の建物と全然吻合しない表示を為したのは不動産の表示を為さないものと同様であると同時に最低競売価格を定めるのは鑑定人は先づ建物の構造如何によつて一坪の価格を算出し而して総坪数に応じて全建物の価格を算定評価するものであつて本件の如く登記簿上の表示と実存の建物との間に構造坪数にいちじるしい相違がある場合鑑定人が実存坪数構造を顧慮することなく予め坪数単価を評定して之れを登記簿上の坪数を乗じて算定した価格を以つて最低競売価格として公告したのは正当な公告を為したものでなく結局之亦競売期日の公告に民事訴訟法第六百五十八条第六号の要件を欠如するものであります

五、民事訴訟法第六百五十八条第三号によれば賃貸借ある場合に於いては其期限並に借賃及び借賃の前払又は敷金の差入あるときは其額を表示することを要件としてゐるのに競売裁判所は執行吏の調査報告書に記載されてゐる実存する賃貸借を全然記載せず之亦競売期日の要件を欠くもので無効の公告と謂うべきものである

即ち

(イ) 木造板葺平家建工場壱棟建坪四拾坪五合には昭和二十六年一月二十日以降賃料一ケ月六千五百円期間三年爾後三年毎に更新することの約定の下に株式会社深沢製材所に賃貸してあり

(ロ) 木造瓦葺平家建居宅壹棟建坪拾四坪八合の内六丈間弐室については昭和二十六年六月七日以降賃料一ケ月金壱千弐百円期間三年爾後三年毎に更新し敷金弐万円を交付を受け北村俊夫に賃貸してあり

(ハ) 右建物の内六丈壱室参丈壱室については昭和二十六年四月二十日以降賃料一ケ月金壱千円期間三年毎に更新し敷金弐万円を交付を受け熊谷理に賃貸してある

六、前記の理由により本件競落は許可すべきものでないと思料せられ且抗告人は本件競売手続に於ける利害関係人であり競落許可決定によりその所有権を失う地位にあり競落の許否につき損失をこうむる立場にあるもので前記抗告の趣旨記載の様な御裁判を求めるため本抗告に及ぶ次第である

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